岡崎にあります「はまな整形外科クリニック」より肩関節の痛みの原因や治療についてご案内します。

肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)

四十肩

肩関節周囲炎とは

よく耳にする四十肩・五十肩のことを、正式な診断名として肩関節周囲炎と言います。肩関節周囲炎の中でも可動域制限がある場合を凍結肩と言います。
放置していればいつか治ると思っている方が多いようですが、それは日常生活に支障がない程度まで改善しているだけで実は良い方の肩と比べると確実に可動域が悪くなっています。日常生活に支障がなければいいのでは?と思いがちですが、症状を感じた時に早期から治療をすることで可動域を悪くさせずにすむことができるので放置せずに早期からの治療することをお勧めします。

肩関節の構造

肩は狭い意味では肩甲骨関節窩と上腕骨頭との間の肩甲上腕関節を指しますが、広い意味では、「肩甲上腕関節」、「胸鎖関節」、「肩鎖関節」の3つの解剖学的関節と、「肩甲胸郭機構」、「烏口鎖骨機構」、「肩峰下滑動機構」の3つの機能的関節から構成される複合関節ととらえます。

肩の挙上動作は肩関節(肩甲上腕関節)と肩甲骨の胸郭上での動き(肩甲胸郭運動)によって行われます。180°挙上時の肩関節可動域は120°であり、残り60°は肩甲骨の外転外旋(上方回旋)運動によってなされています。すなわち、挙上動作は肩関節運動だけでなく肩甲胸郭運動が重要な役割を担っています。

肩関節の構造のイラスト

さらに肩関節の周囲は僧帽筋、三角筋などの筋肉が取り巻いて、関節の動きを支える役目を果たしています。また、肩には広範囲な動きを円滑に行うための潤滑装置として、人体最大の滑液包が存在します。滑液包の内壁は滑膜でおおわれ、滑液、リンパ液で満たされています。

肩関節周囲炎の病因

肩関節周囲炎のイラスト肩関節が十分な機能を発揮するためには肩関節包,腱板,滑液包,三角筋などの軟部組織の協調運動が必要です。したがって肩関節包,腱板,滑液包,三角筋により構成される肩関節の滑走機構のいずれに障害が発生しても肩機能には障害が発生します。
大きく分けると以下の3つに分けられます。

  1. 靱帯や筋腱が骨に付着するところで起こる炎症(付着部炎)
  2. 肩を動かす時に働く腱の滑動性が悪くなって引っかかりを起こし、さらにその部位に炎症が起こる滑動機構障害
  3.  肩を動かす筋肉や腱同士の間隙で起こる炎症

    あまり肩を使い過ぎていないのに炎症が起こってくるのは、筋肉や腱の老化が潜在するために炎症が起こり易い状態にあるためです。

症状

  • 安静時(腕を動かさない状態)でもズキズキ肩や腕が痛む
  • 夜間痛(夜寝ている間の痛み)の為、目が覚める
  • 寝返りで、体を少し動かしても五十肩の痛みで目が覚める
  • 腕を挙げられない
  • 洋服を脱いだり着たりがしずらい
  • 整髪しずらい
  • 背中のファスナーを開け閉めしづらい105_11_img_1[1]

左右の肩が同時に発症するケースは少なく、その多くは片方だけに起こるのも特徴です。

治療

治療は保存療法が主ですが、症状・経過により手術療法を選択することもあります。ここでは保存療法について説明させて頂きます。

保存療法

1.投薬、湿布、塗り薬の処方

関節痛が強い、関節の腫脹がある、炎症所見を認める場合には炎症を抑える目的で消炎鎮痛剤や漢方薬、湿布や塗り薬の処方を行っています。

2.関節内注射

症状に応じてステロイド関節内注射とヒアルロン酸ナトリウムの関節注射を使用します。

Ⅰ.ステロイド関節内注射

ステロイド関節内注射は、疼痛を強く認め炎症が強い症例に対し抗炎症作用を期待して使用します。

適応や使用方法(回数、間隔など)については患者さんの生活様式、趣味、運動量を考慮し、さらに糖尿病や緑内障、心疾患、肝疾患、腎疾患などの合併症を留意した上で使用いたします。

Ⅱ.ヒアルロン酸ナトリウムの関節内注射

人の関節液の主成分はヒアルロン酸です。ヒアルロン酸ナトリウムの関節内注射は関節の潤滑性を高めるために行っていくものです。

ヒアルロン酸は滑膜細胞より分泌され軟骨の合成作用や関節の潤滑作用に関与しています。ヒアルロン酸ナトリウムは鶏冠から抽出された高分子量(60万~120万)の粘弾性の物質です。
ヒアルロン酸ナトリウムは、関節可動域(関節の動き)を改善する作用を有しています。あたかも、車のエンジンオイル(ヒアルロン酸ナトリウム)がエンジン(関節)の磨耗と摩擦を軽減し、歯車の動きを滑らかにする作用に似ています。さらに痛みを誘発する発痛物質を抑制し、関節痛を軽減させる作用も認めます。

使用回数は連続5回投与(1週間に1回)となっていますが、症例に応じて使用回数を増減します。

尚、副作用はほとんど無く非常に安全で使いやすい製剤と考えられています。

4.リハビリテーション

そして何よりも重要なことがリハビリテーションです。多くの場合、靭帯や腱、関節包などが炎症で癒着または硬結を起こします。それにより関節の可動域が大きく低下してしまいます。理学療法士に可動域を改善してもらいながら、自宅でもご自身でエクササイズできるよう指導してもらう必要があります。(詳しくはリハビリテーションのページで述べます)

肩関節周囲炎に似た疾患

1.石灰性腱炎

石灰性腱炎は、比較的よくみうけられる肩関節の疼痛性疾患です。腱板内の石灰沈着(カルシウム塩)によるもので、主に肩峰下包に炎症を起こす疾患です。
 
石灰の沈着部位としては、棘上筋腱内に発生することが多く(70~90%)急に痛みが発現し、肩関節の耐えがたい疼痛を訴えたり、「一睡もできなかった」と来られる患者さんもおられます。肩関節の腫脹や熱感を伴う症例もあります。

急性期の激痛に対しては、疼痛の軽減を第一に考え、局所麻酔剤とステロイド剤を調合したものを肩峰下滑液包内に注射し、消炎鎮痛剤を処方します。早期に注射を行うことで石灰が自然吸収されやすく疼痛も緩和されます。激しい肩の痛みが発言した場合は我慢せず早めの受診をお勧めします。
 【肩関節のレントゲン画像】肩 石灰
石灰化巣は自然吸収されることが多いですが、残存した場合でも機能的に支障を来す可能性は極めて少ないです。

2.腱板損傷

『腱板』とは肩関節を動かす大きな鍵となる4つの筋肉の総称です。

棘上筋や棘下筋は肩甲骨と上腕骨の2つの骨に挟まれて存在します。そのため、周りの靭帯などからも圧迫、摩擦を受けやすい状態にあります。また、太い筋腹部分が短く、ほとんど薄い腱で成っていることや、上腕骨側の骨に付いている部分の血行が乏しいことなどから、加齢による影響も受けやすい筋肉と言えます。そのため軽微な外力によっても損傷することも少なくありません。

肩エコー1
【腱板損傷のエコー画像】

症状

肩の運動痛、夜間痛、挙上力の低下、断裂部には圧痛があります。特徴的な症状として腕落下徴候(Drop arm sign)などがあります。

治療

腱板を損傷すると、肩関節の動きを制限する腱板の機能が低下するため注意が必要です。関節周囲組織に二次的な損傷を引き起こす可能性があり、早期回復が大切になります。

治療の主な目的は、残存腱板の持つ代償作用を引き出し、肩関節の土台である肩甲胸郭関節の機能を改善することです。一般に肩甲骨と上腕骨は1対2の比率で動きますが、腱板を損傷している場合はこの限りではありません。
動きの比率が変わったり、肩甲上腕関節にかかる負担を軽減するために肩甲骨の運動が先行したりと、肩関節の動きが破綻してしまうケースが多々みられます。この動きの破綻による代償作用は、損傷した腱板へさらなる負担をかけることにもつながっており、上腕骨と肩甲骨の運動リズムの獲得は非常に重要です。

ただ、腱板が断裂していても必ず手術を要するわけではありません。保存療法で経過を観察することが多く、まずは痛みを取り除くために炎症を抑えたり、注射を打つなどした上で、理学療法を用いて治癒を図ります。筋肉の拘縮をほぐすようなリラクゼーションの獲得、可動域の訓練、カフエクササイズというチューブなどを使った腱板機能や肩甲胸郭関節機能訓練などを行って、症状の回復を待ちます。

もし以上のような治療で効果がみられないときは、MRIもしくはMRI関節造影で腱板断裂の程度を判断し、以後の治療法を見直すこともあります。残存腱板の代償作用が認められない場合や、スポーツ活動への早期復帰を強く希望する場合などは、手術療法を選択することも考えられます。複数腱に及ぶ断裂を認めたときは、残存腱板の代償作用があまり期待できないため、手術に踏み切る可能性は高くなります。

手術には様々な手法がありますが、その中で最もよく用いられているのは、関節鏡視下腱板縫合術です。腱板が完全に断裂していても、断端をつなぎ合わせることができるときは、元に戻すようにして修復します。

当クリニックでは手術を行っていないので、手術適用な症例の患者様には病診連携の病院もしくは、患者様が希望される病院に紹介させて頂いております。

3.上腕二頭筋長頭腱炎

肩関節前面の疼痛を訴え、しばしば上腕二頭筋筋腹に沿った痛みも伴う。夜間痛を訴えることもあり、結節間溝部に限局した圧痛を認める。

肩関節の運動時痛を認め症状が遷延化すると、中高年者では関節拘縮を来す肩関節周囲炎の一因となる。肘関節屈曲位での前腕回外で結節間溝部に痛みが誘発される(Yergason徴候)。
Speed testでも陽性となる。
肩峰下インピンジメント症候群や腱板断裂に合併することもある。
治療としては、消炎鎮痛剤の投与や局所の安静が基本である。疼痛が強い場合には、局所麻酔剤とステロイドを腱鞘内に注射する。

4.肩峰下インピンジメント症候群

インピンジメント(impingement)とは「衝突」「突き当たる」という意味で、上腕骨大結筋が肩峰下に衝突して生じる障害なので「肩峰下インピンジメント症候群」と呼ばれます。

インピンジメント症候群は肩関節の使い過ぎなどにより腱板が機能不全を起こし上腕骨々頭を肩甲骨側に引きつけておくことが出来ず、肩甲上腕関節が不安定になり生じる障害です。
腱板(特に棘上筋)と肩峰下滑液包に炎症が起きこれらの組織が腫脹するため、肩関節外転90度付近で腱板の滑走が障害されインピンジされるため痛みが生じます。野球の投球やバレーボール、バトミントンなど肩関節を酷使するスポーツによく見られます。
治療と予防で一番重要なのは、肩関節のインナーマッスル(内在筋)である腱板の機能訓練と強化です。腱板は小さな筋肉なので通常のパワー系のトレーニングは無効です。
理学療法士に指導を受けるのが賢明です。