岡崎にあります「はまな整形外科クリニック」より慢性疼痛に対する薬物療法についてご案内します。

慢性疼痛に対する薬物療法

前述しましたが、私も手術を勧められるほどの腰椎椎間板ヘルニア患者でしたから、カバンの中には常に痛み止めを忍ばせていました。痛み止めというのは、いわゆる非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)のことです。もちろん侵害受容性疼痛を始めとする炎症性疼痛に対しては第一選択薬であることに間違いはありません。私もこのNSAIDSにはかなりお世話になりました。この薬剤がなければ、仕事を続けてこれなかったでしょう・・・。しかし、このNSAIDSが効果を発揮する時とそうでない時をともに体験してきた私の経験上、

慢性疼痛に移行した神経障害性疼痛や心因性疼痛に対しては、この通常の消炎鎮痛剤(NSAIS)の効果は残念ながら乏しい・・・

と言わざるを得ません。しかしながら、そのような状態にもかかわらず延々とNSAIDSのみを内服してみえる患者さんがいまだ数多くおみえになるのも事実です。このような場合、正直なところデメリット(副作用の心配)の方が上回ってしまう・・・ことが考えられます。

ここ最近、慢性疼痛に対する治療薬の選択がようやく充実したものになりつつあります。2011年7月より、先進国では最も遅れて弱オピオイド鎮痛剤が保険適応として認可されました。その他にもテレビのCMでも神経の痛み止めとしてプレガバリンなどが紹介されるようになり、痛みの治療薬にも選択肢がもてるようになってきたといえます。ここでもいくつか紹介してみたいと思います。

  1. 三環系抗うつ薬(トリプタノール等)

1960年代に開発された古い薬ではあるが、抗うつ作用に加え、高い鎮痛特性を有することが明らかにされている。そのため平成21年9月から厚生労働省が『慢性疼痛におけるうつ病、うつ状態』に対する使用を認めた。神経障害性疼痛のほか、慢性頭痛に対する効果が認められており、薬物乱用頭痛や群発頭痛に対してもよく用いられる。

  1. SSRI(ジェイゾロフト、パキシル等)
  2. SNRI(トレドミン、サインバルタ等)

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤である。アセチルコチン受容体、アドレナリンα1受容体、ヒスタミンH1受容体などの各種受容体を遮断しないことから、TCAで問題となっている抗コリン作用(口渇 、顔面紅潮 、悪心、胃部不快感、食欲不振 、便秘 、眠気 、目眩い 、立ちくらみ )が少ない。 SNRIは下行性疼痛抑制系の賦活作用により鎮痛効果を発揮すると考えられている。

痛みに抗うつ薬・・・??とびっくりされる方も多いと思います。しかし痛みの伝達メカニズムから考えると十分納得のいくお薬なのです。

人には痛みをなるべく脳に伝えないように制御する下行性疼痛抑制系というシステムが存在します。(下記図のごとく)それを賦活化することにより、痛みを感じにくくしてあげるということなのです。
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  1. 抗てんかん薬(ガバペン、プレガバリン等)

中枢神経系においてカルシウム流入を抑制し、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することにより、過剰に興奮した神経を鎮め、痛みを和らげます。 神経痛は神経細胞にカルシウムイオンが作用して痛みの伝達物質が過剰に放出されることにより起こります。リリカの作用機序は神経細胞のカルシウムイオン結合部位のα2δサブユニットという部位に結合して、カルシウムイオンの結合を抑制して、痛みの伝達物質の放出を低下させ鎮痛効果を発揮します。

  1. μオピオイド受容体作用薬(トラムセット、ノルスパンテープ)

弱オピオイド製剤(トラマドール塩酸塩)

μアゴニストと三環系抗うつ薬の作用を併せ持った、フェノールエーテル系鎮痛薬 μ受容体だけではなく、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、下行性疼痛抑制系を賦活し、鎮痛効果を発揮する トラマドールとアセトアミノフェンの合剤である、トラムセットが2011年8月より承認された。 欧州神経学会 EFNSの神経障害性疼痛薬物治療ガイドラインでは、トラマドールは有痛性多発性神経障害ではエビデンスレベルAを受けている薬剤である。

非オピオイド製剤(ブプレノルフィン塩酸塩)

麻薬拮抗性鎮痛薬(非オピオイド系鎮痛薬)、モルヒネなどの完全受容体作用薬に競合 μ受容体の部分作用薬 partial agonist、δ受容体作用、κ受容体アンタゴニスト作用 κに作用しないため、ソセゴンのような不快な精神異常(不安、悪夢、離人感)は無い 鎮痛作用はモルヒネの20~50倍。 適応—術後痛、がん性痛変形性関節症および腰痛症に伴う慢性疼痛、 μオピオイド受容体に対する結合力は、アンタゴニストであるナロキソンなどと匹敵するほど非常に強いため、アメリカでは 2001年後期にオピオイド依存の治療薬として高用量の錠剤が FDA の認可を受け、現在はその用途が主となっている。 副作用—呼吸抑制、悪心、嘔吐、眠気、頭痛 効果の持続時間が長いことから耐性がつきにくく、乱用能も低い

  1. NMDA受容体拮抗薬(ケタラール等)

要するに、今まで痛みの末梢の部分のみをターゲットとして行ってきた薬物療法に頼りがちであったが、痛みの伝達回路をターゲットに、痛みをなるべく脳に伝えないように制御する薬物の選択肢が増えたことにより、既存の治療ではコントロールできなかった慢性疼痛もコントロール可能になってきた。

 

さて、痛みがコントロールできるようになったら・・・

慢性疼痛に対する運動療法

 

やはり整形外科領域で痛みの多くは、身体機能の低下が根底にあることが多いと言えます。要するに、体の柔軟性の低下、筋力の低下、バランス能力の低下・・・これらが原因で脊椎や関節疾患をきたし、その結果痛みが発生してしまうというわけです。

ですから、痛みだけをコントロールしたところで、これらの身体的な不具合を改善しなければ、また同じ痛みを繰り返してしまう可能性が高いというわけです。痛みが治まったら、治った!と思うのではなく、ようやく治療のスタート地点(リハビリができるようになった)に立てた!と考えてほしいわけです。

身体機能の低下は、絶対に改善できます!断言できます!

ただし・・・努力をした人のみです!そしてかなりストイックに・・・(^-^;

何度も言いますが、10年間薬を飲みまくり、注射を打ちまくったひどいヘルニア患者の私が、この10年は全く薬も注射も必要としない状態になったわけですから・・・。私はめちゃめちゃ固い体で、子供のころからずっと競泳(しかもバタフライ)を行ってきました。30代後半で当院の理学療法士にメディカルチェックを受け、ボロクソに言われました・・・(*_*)それから、あれやれ!これやれ!と数多くの宿題をだされ、ホームエクササイズを一年程行った頃、気が付けばいつの間にか薬を忘れているようになりました。人間は一度成功体験を得られると、欲が出て続けられるものです!それから10年、現在に至るまで、ほぼ毎日夜な夜なホームエクササイズを続けています。他力本願では何ともならないのが身体です!最後はやはり自らの努力しかないと言うわけです。ただ何をどのように努力していくのかは、一生懸命に指導させて頂きますので、ともに頑張っていきましょう!

 

どうしても治らない痛みに対しては・・・

認知行動療法とは・・・

 

人は、いろいろなストレスにさらされています。そのストレスが原因で、悲観的になり、ときに非適応的な情動や行動に支配されてしまい、適応的な認知ができなくなってしまう・・・。

 

実はこうした障害が痛みの領域においても密接に関与していることが分かってきました。要するに痛みを適応的に認知できなくなってしまった時に、どんな薬剤をもってしても治らない痛みができあがってしまうのです。このような場合、整形外科医やペインクリニックのドクター単独で治療を行っても、決して満足のいく結果が得られない場合が少なくありません。最近、日本でも、このように痛みに非適応的な身体表現性疼痛障害に対し、整形外科医、心療内科医、リハビリ専門医、理学療法士、臨床心理士、看護師らがチームで行う、認知行動療法の効果が少しずつ認められるようになってきました。

 

もともと認知行動療法は欧米において、うつ病や不安障害(パニック障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害など)、不眠症、摂食障害、統合失調症などの多くの精神疾患に効果があることが実証されて広く使われるようになってきました。

 

具体的には

(1)患者さんを一人の人間として理解し、その人の悩みや問題点、強みや長所を洗い出して治療方針を立て、それを患者さんと共有して力を合わせながら面接を進めていきます。

(2)行動的技法を使って生活のリズムをつけていきます。毎日の生活を振り返って無理のない形で、(a)日常的に行う決まった活動、(b)優先的に行う必要のある活動、(c)楽しめる活動ややりがいのある活動を、優先順位をつけて行っていく行動活性化は効果的です。とくに、楽しめる活動ややりがいのある活動を増やしていくことは効果的です。また、一定の身体活動や運動を用いて自信やコントロール感覚を取りもどし、他の人との関わり体験を持てるようにしていったり、問題解決技法を使って症状に影響していると考えられる問題を解決していったりして、適応力を高めていくようにします。

認知行動療法